今回はいつもお世話になっているオーナー様より、27.5インチのクイックリリース式ホイールのマウンテンバイクに、シマノのコンポーネント・XTR、XT、SLXを組合わせてコンポーネント交換させていただいたカスタムについてご紹介します。
3. クイックリリース式のホイールで12Speed化させるには
(↑New)
今回のカスタムは、オーナー様より以下のご相談をお受けしたのがはじまり。
「トレイルを走っていたら、チェーンが急に外れてそのまま転倒し、頭がガードレールまであと数十センチで非常に怖い思いをしたので、可能な限りチェーンが外れないようにできますか?」
オーナー様の乗られているバイクはCHANGE BIKE社製の折りたたみが可能なマウンテンバイク。
折りたたむことにより、省スペースで自宅に収納できるためオーナー様に愛用されています。
そして、標準装備で付いているコンポーネントはシマノ・DEOREやACERAをミックスした3×9Speed。他メーカーでもトレイルライド入門用モデルであれば、同様のモデルが採用されていることもあります。
それでもチェーンが外れてしまった一因として考えられるのが、コンポーネントのグレードの性能差があります。
マウンテンバイクのコンポーネントはグレードが上がることにより、軽量化・高剛性化の他にチェーン外れなどのトレイル走行中に起こり得るトラブルに対しての対策が施されています。
そこでコンポーネント交換をご提案させていただきましたが、実行するにあたり大きな問題として、昨今のCOVID-19の影響により部品が非常に揃いにくい状況が続いています。
ただ、オーナー様より「入手できる組合せ・仕様で結構です。予算は本体価格から2倍ぐらいでお願いします。」と全面的にお任せのパーミッションを頂いたので、こちらで仕様等は選ばせていただきました。
シマノ・マウンテンバイクコンポーネントを取扱っているディストリビューターから今回入手し、交換させていただいたコンポーネントの一部をご紹介します。
FC-M9100 170mm 38×28T(XTR)
SM-BB93 BSA(XTR)
FD-M9100 2×12Speed バンド(XTR)
CN-M9100 116L(XTR)
SL-M9100 2×12Speed(XTR)
RD-M8120-SGS 2×12Speed(XT)
CS-M7100 10-45T(SLX)
以上の通り、リアディレイラーとカセットスプロケットはXTとSLXグレードになりましたが、XTRグレードの場合は納期が当時で1年以上先、またXTやSLXグレードのクランクやフロントディレイラーも相当待つ必要があったため、こちらの組合せにさせていただきました。
3. クイックリリース式のホイールで12Speed化させるには
ただ、12Speed化させるには乗り越えなければならない、"12Speed対応のフリーボディに交換する"という、大きな壁があります。
ロードバイクの規格とは異なり、11Speedまではフリーボディが共通で使用できますが、12Speedからは"マイクロスプライン"という、一般的なフリーボディとは異なる多くの溝が切ってあるフリーボディでないと、スプロケットを装着できない構造になっています。
今回のCHANGE BIKEに標準採用されているホイールはMAVIC・クロスライドなので12Speed対応のフリーボディに交換自体は可能ですが、当時は日本国内への入荷が未定となっており、事実上交換できませんでした。
よって次の方法、ホイール交換となりますが、ここでも12Speed対応クイックリリース式ホイールがないという問題があります。
ハードなライディングに対応するため、現在のマウンテンバイクのホイール固定方法の主流はスルーアクスル等になっているため、グレードアップ用のホイールも新しい規格に合わせた結果、12Speed対応クイックリリース式ホイールが販売されていないということになっています。
よって、クイックリリース式のマウンテンバイクを12Speed化する場合は、手組みホイールでの交換もセットになります。とは言え、12Speed対応のクイックリリース式リアハブの種類は非常に限られています。
今回、入手できたのはシマノ・FH-MT500という、以上の条件を満たした32Hのリアハブを選択。
ハブ単体での重量は425g、クイックリリースレバーは77gで合計502g。
リムも例に漏れず品薄状態が続いていましたが、XC向けモデルのアレックスリム・VOLER2.3が、オーナー様のライディングスタイル、バイクの雰囲気にマッチしていたのでこちらを選択。重量は435g。
ブラックスポークで組上げて、重量はクイックリリースレバーなしで1088g。
クロスライドが同じ条件で計測して1107gだったので、重量に関してはほぼ同等を維持することができました。
複雑な部品同士の規格、限られた入手・組合せの選択肢の中をクリアした結果、見違えるような変速のキレを手に入れ、リアディレイラーに搭載されたクラッチ(チェーンスタビライザー)のおかげでチェーンの暴れは大幅に減少し、オーナー様も大変ご満悦でした。
XTRミックスコンポーネント交換させていただき、いつもの点検にお持ちいただいて感想をお伺いしたところ、
「チェーンが全く外れなくなって、部品を替えただけでこんなに変わるとは思わなかったので驚きました。」
と、今までの悩みが解決しご満足いただけました。その後、「これだけ変わるのならブレーキも一番イイものに交換します。」と追加のオーダーを承り、カスタムさせていただきました。
今回、交換させていただいたのはクランク等の同じく、XTRグレードの油圧式ディスクブレーキ
・BL-M9100
・BR-M9100
をチョイス。機械式ディスクブレーキから油圧式ディスクブレーキに交換する際、ディスクローターも対応したものに交換が必要ですが、以前交換したディスクローターが対応していたので今回は継続使用になりました。
今回のM9100系のXTRのブレーキには注意点が2つあります。
1つ目は、ブレーキキャリパーの種類によって接続できるディスクブレーキホースが異なる点。
XTRグレードのディスクブレーキホースには、SM-BH90-SBMというバンジョー付きのモデルが設定されていますが、このバンジョー付きはBR-M9120に対応しています。
BR-M9100の場合、このバンジョー付きは取付けできません。ディスクブレーキホースはSM-BH90-SSLという、両端がストレート形状のものを使用しますが、グレードとしてはDEOREになります。
つまり、XTRのSL-M9100とBR-M9100との組合せの場合、ディスクブレーキホースはシマノ純正だとDEOREグレードになります。
2つ目は、ハンドル周りのライト等を取付けるためのスペースが減少する点。
ブレーキレバーをハンドルに固定する際、クランプする部分は通常一箇所ですが、BL-M9100のクランプする部分は内側に寄っています。グリップの隣にブレーキレバーを支持するように出っ張りがあり、このクランプ部分と出っ張りの間にシフターが収まる設計になっています。
これによりシフターの位置調整が広く取れるメリットがありますが、ハンドル内側のスペースは減少するため、ライトやスマートフォンホルダーなどを複数装着している場合は、取外すかスペースマウントを増やしてそこに移設する可能性もあります。
以上の2点が取付ける場合の注意点になりますが、最高グレードだけあってブレーキ性能は申し分ありません。
XTRはクロスカントリーやエンデューロなどの上り下りのあるレース用途を想定して設計されているので、ガツンと止まるというより、なめらかにスピードコントロールできるのが特徴。実際に動作確認のために試走してみたところ、軽い力でラクに減速できました。
オーナー様にも喜んでいただけて、今回も良かったです。
ご縁があって納車・修理・メンテナンスをさせていただいた、皆様の大切な愛車の記録です。
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